英語のつまづきの根っこにある言葉の不可解
少し前にTwitterのTLで見かけて面白そうだったのでポチっていた本、『語源でわかる中学英語 knowの「k」はなぜ発音しないのか?』が良書だったのでレビューです。
かつて英単語に苦手意識のあったあなたへ。
「know」の「k」ってなんで読まないんだよ!みたいなことは「中学英語あるある」ですよね。今の時代は小学校から英語を教えたりするようですが、私の時代は中学校で初めて日本語以外の言語を勉強として学ぶのが普通でした。
小学校で勉強が得意な子の中にもこの新しい言語を理解するのが難しくて苦戦したりするものです。その根本は「自分がこれまで学んできた言葉のルールと違う」ということ。特に小学校で「ローマ字」を先に習うことでアルファベットの基本ルールがローマ字読みで学習されてしまい、結果として同じアルファベットの文字列にも関わらずルールが異なる英語に苦手意識を持ってしまうということがあるんですね。
塾講師・家庭教師で子どもと向き合うことでわかった苦手意識の原因。
大学生の時に塾講師や家庭教師をしていたことがありまして、その時の生徒の中にもやはり英単語への苦手意識が強い子が少なからずいました。こういう時に大切なのは「なぜこうなるのか」をしっかりと説明して理解する段取りを踏むことです。というのも英単語のルールに苦手意識がある子の多くは「とても賢い」子です。小学校の時の成績も良い。他の教科も特に苦手ではない。でも英語につまづく。その原因は「なぜ」が解決されないからです。
賢い子はどんな教科でも自分なりの「どうしてこうなっているのか」という理論・ルールを持って理解しています。その理論自体は世間一般的なものと必ずしも一致しないかもしれませんがそれは大した問題ではなく、「思考の流れとして一貫性を持って理解できる」ということが大事なのです。だからこそ「どうしてこうなっているのか」がわからない・理解できないものに対して非常に強いストレスを感じます。これが苦手意識につながります。
勉強に対する苦手意識を克服するための2つの方法。
この状態を解消するには方法は2つ。
1つが「なぜこうなるのかを理解する」こと。これが今回の本が提供してくれる教養です。英語の語源について、大学で専門的に学ぶレベルのストーリーを噛み砕いてわかりやすく理解していくことができます。この本だけでは十分ではない説明もあるかもしれませんが、それは新たな興味として別の文献にあたれば良いだけなので、入門書としてもとても良いバランスで構成されています。
ちなみにもう1つが「一旦、理論付けを意識しないでそのまま記憶する」ことです。これは実は英語が得意な子が無意識にやっていたりするのですが、「考えすぎないでありのままを受け入れる」ということ。日本語だって語源を意識しなくても読み書きできるようになりますよね。勉強としてガッチリ考えすぎなくても言葉というものは自然と身に付くものです。取り敢えず海外に行って数年暮せば何となくコミュニケーションは取れるようになるようなもの。要は自然にそのまま疑問を持ちすぎずに覚えれば良いのですが、「賢い子」は「どうしてこうなっているのか」で一々立ち止まって考えてしまうんです。
これは決して悪いことではないんですよ。学びの姿勢として理由を知りたいと考えることは大切なことです。でも考えすぎて苦手意識を持ってしまうと中々歩き出せなくなってしまう。どうしてもそこから抜け出せない場合は、この「何も考えずにそのままを受け入れる」ことが有効な場合があります。ある程度使いこなせるようになってから振り返って深く調べれば良いんです。
英語だけではなく数学の苦手意識についても根本は同じ。
ついでに言うとこれ数学も同じ。中学校で数学を学び始めると同じ理由で拒否反応を示してしまう子がいます。そのまま数学が苦手な状態で高校まで行ってしまう子もいる。でもそういう時には「一旦、そのまま受け入れる」ことで解決できることがあります。
というのも公式の深い意味を考えすぎたり、複素数ってなんだろうみたいなことを考えすぎたりしがちなんですが、それって数学を専門で研究してもどこまでわかるのかわからないくらい難解な問題かもしれませんよね。哲学的な領域に入っていく気さえしてくる。
そしたら、九九を暗記したときのように「一旦、意味ではなくルールだけ覚えてひたすら繰り返す」ことをします。(X+a)(X+b)のa、bをランダムに入れ替えた式を深く考えすぎず何十も解きまくるんです。人間の頭って良くできているもので、一定数やり続けると自然と手が動くようになってきて、ある瞬間に「理解」します。
賢い子は先に「理解してから」解こうと考えますが、そこでつまずいてしまう場合にはこのやり方で「理解を後にする」のです。どれだけ数学苦手な子でもこの手順をしっかりと丁寧に踏むと数学得意になりますよ。大人が理解しなければならないのは「勉強苦手」な子の理由は「賢いが為に考えすぎ」である可能性があるということ。一旦、その順番を変えることで一歩進めることもあるんです。
本書は英語でつまづきがちな「なぜ」を語源や変化の流れで解消してくれる。
さてさて、本書に話を戻しますと、英単語の「なぜ」を言葉や文化のストーリーから紐解いてくれる良書です。古英語→中英語→現代英語の流れの中で単語や言葉がどのように変わってきたのか。ギリシャ語→ラテン語→現代英語という流れや、ギリシャ語→ラテン語→中世フランス語→現代英語という流れで比較説明されている言葉もあります。細かい例を引用したいところですがアルファベットではない言葉も出てくるので割愛します。
そのかわり本書のタイトルとなっているknowについてのみ、参考までに解説しますね。「k」は発音しないから「サイレントk」と言われるそうで。「なんで読まないんだよ!」と思っていたら、なんと昔は「読んでた」んですね。knowのルーツはgneh-らしく、つまりkn-はgn-だったと。「グノーシス派」って歴史か哲学の教科書で見たことあるかなと思いますが、このGnosticism(グノーシス派)のGn-がまさにこれで、古代ギリシャ語で「知識」という意味に由来するとのこと。knowは古英語ではcnawan(クナーワン)、中英語ではknowen(クノウェン)、最後に近代英語になってknow(ノウ)と「発音されなくなった」。しかし「k」だけ残ったと。おしまい。
いや何か流れで読まなくなったけれど
単語には「k」残っちゃったって適当すぎね?
って思いませんか。でもそれが語学なんです。言葉は数百年でずいぶんと変わります。日本語だって「ゐ」とか「ゑ」とか五十音からは消えたものもありますよね。でも言葉をちゃんと紐解いていくと、発音では生き残っていたり、「ん」だけを考えても実は何種類も無意識に使い分けてたりするわけです。その一つ一つのルールはどこか決まったタイミングで一斉に「変えよう」と決めたものでは基本的にはなくて、様々な文化的な物語やときには「なんとなく」変わっていったものだったりします。それを知ることで学びについて肩の荷が降りることもあるということです。
まとめ
英語が苦手な子にとっては「ある意味での適当さも含めて理由がわかること」が大切なんですね。英語が得意な子にとっても新たな興味を呼び起こすことにつながります。英語の辞書を片っ端から読んで語源だとか使い方だとかにワクワクしていた方もいるはずです。大人になってから中学英語を学び直すという書き方が本書ではされていたりもしますが、これは中学英語というよりも「英語学」の入門本と言った方がしっくりきますね。そういう意味でも間口が広い良書です。
ちなみに目次を見てみると、アルファベット順にa~zの項目で構成されています。どこから読んでも面白いですが、順番に読んでいくことで前項の復習的な説明の仕方もされていくので参考書としても丁寧にわかりやすく構成されています。参考書としても教養としても小ネタとしても楽しい一冊ですので、是非読んでみてください(私は紙の本で買いましたがkindle版もありますね)。ではでは。