シン・ゴジラの造形が生み出される際、庵野監督が「これが最もイメージ近い初代です」と私物のフィギュアを持参してきたというエピソードを『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』の関係者インタビュー記事を読んで知りました。それが『ビリケン商会 GODZILLA 1954(初代ゴジラ)』です。
目次
『ビリケン商会 GODZILLA 1954(初代ゴジラ)』
まず前提として私自身は1983年生まれでして、記憶に残る限り最初に映画館で見たゴジラ映画は1989年公開の『ゴジラvsビオランテ』という世代。
小学生くらいだと映画で見る他には安価なソフビで遊ぶかどうかという程度で、大人向けと感じていたゴジラのソフビ・ガレージキット(=ガレキ)・フィギュア造形にハマったのは比較的最近のことです。そのため発売当時の人気であるとか詳細データは今手に入る資料に頼るしかありません。
当記事のビリケン商会の初代ゴジラのソフビ写真については塗装済みの完成品を手に入れた私物ですが、できる限り製品について調べられるデータについては記載します。
『ビリケン商会 GODZILLA 1954(初代ゴジラ)』基礎データ
1993(平成5)年12月17日発行の『ホビージャパン12月号別冊 ゴジラ 超獣伝説』のp44・45に『ビリケン商会 ソフトビニールキット[初代ゴジラ]製作・ハマハヤオ』と見開きで紹介されています。
この本文に「11月に発売となった最新作」「ハマハヤオによる新造」と記載されておりますので、ビリケン商会の初代ゴジラは【1993(平成5)年11月発売】ということになりますね。
さらに同誌巻末の「東宝怪獣ガレージキットカタログ」中のp140には「ビリケン商会」の枠があり、ここで写真とともに下記内容のデータ記載があります。
【’54大怪獣ゴジラ(初代ゴジラ)】
スケールまたはサイズ:280mm
材質:ソフトビニール
原型師:浜勇夫
価格:4500円
製品名が本文と異なりますが写真を見る限りではこの初代ゴジラのことで間違いなさそうです。ちなみに小さい頃によく作ったはめ込み式&デカールシール(または単にシール)を貼るようなプラモデルとは違って、塗装済の商品ではなく自分で組み立てて色を塗るガレージキットですね。
『ビリケン商会 GODZILLA 1954(初代ゴジラ)』外観
原型師のハマハヤオ氏によって「縫いぐるみそのものの再現を狙った造形」と解説されるように、この初代ゴジラの造形は生物としてのゴジラではなくゴジラスーツそのもののイメージが立体化されています。
いわゆる「生物的な格好良いフォルム」とは異なるのですが、映画の中で動く「ゴジラスーツそのもの」を再現しているという意味で最高の造形だと感じます。どうやら見る人によっては野暮ったくも見えるようなんですけれど、個人的にはこの造形こそゴジラの歴史そのものを背負っているようで格好良いなと。
左サイド下からやや見上げるように。背筋を伸ばした直立姿勢や半ば上を向いた両手のフォルムは特徴的ですが、実際のゴジラスーツに可動域の制限があったからこそのシルエット。さらに左側に大きく振れた尻尾も当時のゴジラスーツは直立すると左右いずれかに曲がってしまうことを再現しているということでとことんリアルです。
この姿勢や手のイメージは正にシン・ゴジラに受け継がれていますよね。
右サイドから。ゴジラスーツのたるみがリアルに再現されています。生物的な格好良さを追求していくと基本造形は左右対称になっていくはずなのですけれど、この大きなたるみ加減こそがこの初代ゴジラフィギュアの魅力です。
ちなみにこの初代ゴジラは口・手・尻尾の接合部をある程度動かすことができます。接着剤で固めてしまうこともあるようですが、ソフビ・フィギュアとして遊びを残しているというのも素晴らしいなと。
背びれ。完成品塗装済のものを入手して細かいメンテ前なので汚れもそのままですがご愛嬌ということで。今からこのような古いものを手に入れる場合、多少汚れていたりしてもそれ自体が既にアンティークのような魅力を持っていることがありますよね。どこまで綺麗にするのか、再塗装してしまうのか、塗装剥がれまで含めてそのまま残すのか。
私の場合は、前の所有者や塗装した方自身の作品として基本的にはそのまま残していきたいという感覚が強いですね。
この初代ゴジラの特徴の一つが喉元にあるスーツアクター用の「命穴」。普通なら着ぐるみだとバラしてしまう表現ですけれど、ゴジラスーツそのものを再現しているからこそのモールドです。
左サイドやや前方から見上げるように。このアングルで見ても完全に着ぐるみ再現なんですが最高の造形です。庵野監督が「初代ゴジラのイメージ」としてこのフィギュアを置いたのは「特撮」「怪獣」の歴史がまるっと含まれているということなのかもしれませんね。
ということでハマハヤオ氏の「ビリケン商会 初代ゴジラ」(文献によって言い方様々なのでこの記事でも表記揺れてますがご了承ください)でした。
【補足】『ビリケン商会 GODZILLA 1954(初代ゴジラ)』とシン・ゴジラ造形との関係性
さて、この初代ゴジラとシン・ゴジラ造形について補足しておきます。冒頭に述べた通り、この「ビリケン商会 初代ゴジラ」は庵野監督が「シン・ゴジラ」造形のイメージとしてご自身の私物を関係者に見せたというエピソードがあります。
『シン・ゴジラ 2号雛形レプリカ』と『ビリケン商会 初代ゴジラ』を並べてみると、確かにシルエットに共通性があるように感じられます。
『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』内の庵野監督ロングインタビュー(p504)では「僕が唯一持っているゴジラ本体のフィギュアなんですが、ビリケン商会の初ゴジのソフビをマヒロ(前田真宏)に渡して、『これにしてちょ』と。」と庵野監督がおっしゃっていますので私物であったということは本当のことのようですね。
また同書籍内の前田真宏(まえだ まひろ)氏のインタビュー(p53)には「『これが最もイメージに近い初代です』と言って、ビリケン商会の素組みのソフビを渡されました(笑)」との記述。
さらに同書籍内の竹谷隆之(たけや たかゆき)氏のインタビュー(p102)には「当日は庵野さんから『お願いしたいのは、初代ゴジラのイメージです』と言われ、私物のビリケン商会のソフビを参考用にと渡されました」との記述も。
ここまでの資料から例えば「ビリケン商会の初代ゴジラはシン・ゴジラ造形の原型になった!」と表現したくなるのですが、この表現には少しだけニュアンスに気をつけなければならないかもしれません。
というのも、『ホビージャパン MOOK 784 シン・ゴジラ GENERATION』のP57には先に紹介したゴジラキャラクターデザイン・造形の竹谷隆之(たけや たかゆき)氏のインタビュー記事が載っています。
ここで竹谷氏は「ビリケン商会のソフビは、参考になりましたか?」という質問に対して「その『初ゴジ』ソフビは、庵野さんのものだったんですね。形を移植するという意味では、特に参考にはしていないんですが、着ぐるみ上で発生したエラーとも言える、ゴムのたるみ感を生物法則的に肯定することによって、重量感やスケール感に変換できたら、と話し合いました。」と語っています。
「形を移植するという意味では、特に参考にはしていない」という表現になっているんですよね。これ『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』の同じエピソードのインタビューには記載されていないんですけれど、結構重要なことなのかなと。
つまりビリケン商会の初代ゴジラを見て参考にしたのは形ではなく、フィギュアの特徴であるゴジラスーツのたるみ感ということ。そのたるみ感をシン・ゴジラ造形のイメージに変換したということなんですね。
2つのフィギュアを並べるとどうしても「初代ゴジラの造形の血を受け継いでいる」と感じてしまうのですけれど、それは「形を参考にしたというわけではない」というのが重要なことです。
これがわかると前述した「ビリケン商会の初代ゴジラはシン・ゴジラ造形の原型になった!」という表現はニュアンスとして少し違うかもなというのを感じられると思います。言葉のあやだと言われればその通りなのですが、周辺情報を調べるほどに造形の奥深さを感じるところです。
まとめ
ということで「ビリケン商会 初代ゴジラ」の紹介と「シン・ゴジラ」造形との関係性について簡単にまとめてみました。いずれ2号雛形レプリカと並べるなら物語性としてもこのビリケン商会の初代ゴジラしかないのかなと。ではまた。
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