仕事柄、故郷岩手の産品やプロダクトを県外の方々にどうやって手にとってもらったり食べてもらったりするかについて取り組むことが多い最近です。
独立起業につながる震災の経験
独立起業した際には東日本大震災からのふるさとの復興を一つのテーマにしていて、その為に自分に何ができるのかをライフワークとして位置付けてもいるからです。震災のことは追々記事にもするかもしれませんが、あの瞬間に私も沿岸で被災しまして、見も知らぬ私を迎え入れてくれたお宅で暗闇のなか余震が続く一晩を過ごしました。故郷岩手や仕事で縁の深かった宮城県北の自治体が甚大な被害を受けました。少なからず知人も亡くしました。
3.11の長い夜が明けるまでに、自分の残りの人生は故郷の復興と、次に同じようなことが起きたときに一人でも多くの命が助かるための何かにかけようと腹を括ったんです。それから1年間はほぼ毎日被災地を走り回りまして、それからスキルセットを増やして磨くために転職しました。その後30歳で独立すると決めて実行して、今が5年目です。
ベースにあるモチベーションは故郷の復興。ただ震災から7年が経って来年度にかけて一応自治体が規定する復興期間というものは完了することになります。三陸沿岸の復興道路と言われる高速道路の整備はもう少しかかりますが、それでも2020年には完成予定。つまり「復興」という言葉自体の強さは公的な意味合いでも、また民間の感覚的な部分でも現状では段々と弱くなってきています。もちろんいまだに震災の影響は続いていて、住宅・仕事・震災遺構などについての課題が残っている自治体もありますけれど。
あまりに被害が大きいのでひとまとめにはできないことと、それを私という1県民・市民が代表して語ることもできないという前提はありますが、この数年間の世の中の流れの中で日本中・世界中の方々からの支援を受けながら被災した地域が再び歩き始めることができているのは確かです。被災したひとりの人間として心から感謝しています。
何のために「働く」のかということと、ライフワークと。
このような状況の中、私自身の「働く」ということにおけるテーマは企業直後から変わっていません。震災からの復興という意味合いだったりニーズは段々と減っていても、震災前にもずっと課題であった故郷の振興については同じ文脈で捉えることができるからです。ふるさと振興だとか震災復興だとか地方創生だとか表現するワードは変わっても、いかに故郷を未来につないでいくのかという根幹は変わらないんですね。
それで普段お手伝いして取り組んでいる仕事は、主に企画的・広告的な立場からどうやって地域だったり事業者だったりを後押しできるのかというものが中心となっています。あまり大げさなことは言いたくないのでささやかな表現に留めておきますが。
その一環で、「自分自身が地域の伝統的なプロダクトを身につける」ということも進めて行きたいなと考えています。しかもできればオーダーメイド。自分自身はあくまで1ユーザーとしての位置付けで発注して、でもその中でできれば新しい挑戦が織り込まれているような試み。ということで、岩手の伝統的な工芸品の一つである「ホームスパン」でジャケットを作ろうと考えています。
お願いするのは「みちのくあかね会」さん。
参考)みちのくあかね会HP:https://www.michinoku-akanekai.com/
岩手の伝統的な工芸品「ホームスパン」
「ホームスパン(Home spun)」は「家で紡いだもの」という意味そのままで、羊毛を家庭や小さな工房で紡いで織って生地や製品を作るものです。
もともとは明治時代に輸入に頼っていた毛織物を自給できるようにしようと産業振興のために緬羊飼育が北海道や長野や岩手にもたらされたそうで。この3道県が選ばれたのは「毛織物の産地であるイギリスと風土が似ていたから」らしく、ホームスパンの技術自体は岩手県に住んでいた英国人宣教師によるものが始まりだとか。ちなみに本家イギリスではその技術が衰退していったにもかかわらず、岩手では百数十年経った今も技術が継承されていて伝統的な工芸品として愛され続けているんですね。国内のホームスパンの約8割が今は岩手県で生産されていると聞きますから、よく時代を超えて継承してきたものだなと驚かされます。
30代も半ばになればこのホームスパンのジャケットの1着や2着は着ていないとね。ということで、今回ふるさとの伝統技法たるホームスパンでジャケットを仕立ててみることにしました。自分としてはプロジェクトを立ち上げた感覚でいるのですが、工房の方にも後で仕立てるまでのレポートとか載せていいかを確認した上でOKであればもう少し詳しい記事にしていく予定です。
ちなみに簡単に「仕立てる」といっても普通の服とは違います。
1)まずは「欲しい生地のイメージを決める」「縦糸と横糸を決める」「色のレシピと織り方を決める」などという準備段階。
2)次に「毛を染める」「毛を混ぜて混色のシートを作る」「糸に紡ぐ」「必要な長さに糸を揃える」「織る」「洗う」などという生地を作る工程(実際はもっと細かい工程があります)。
3)そしてこの完成した生地を使ってやっとテーラーで「仕立てる」ことになります。
テーラーでの仕立ては2〜3週間ほどで通常と変わらないのですが、問題は「生地を作る」ところまで。工房の生産量は決まっているので、私の生地が「毛を染める」段階から始まるのは年明け2019年の1月中旬以降の予定です。そこから完成までおそらく数ヶ月。ホームスパンは毛織物であたたかいものなので、次の秋口から着られれば良いかなという感覚で進めます。できれば年間を通して少しでも長い期間着られる薄型のものができないかなと考えてまして、生地も可能な限り薄い仕上がりになる織り方でお願いする予定です。
まとめ
ということで出来上がるのは少し先の話にはなるのですが、取り敢えずスタートしたのでご報告でした。
ホームスパンってどちらかというと地元でも年齢層高い方々が着るイメージがあるのですが、比較的若い人たちでも身につけるシーンが増えれば良いなと考えております。長く地域に受け継がれてきた技術ですし、メンテナンスすれば数十年着続けることもできる素材です。ただ個人的には数十年経っても変わらなさそうなオーソドックスなデザインよりは、今流行りのスタイルで仕立ててみる方が面白いだろうなと感じます。これはテーラーさんとの相談ですけれど。お楽しみに。
2019年12月9日追記:1年かけて生地が出来上がったのでテーラーさんへの引き継ぎをしてきました。