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【レビュー】ミツバチ・養蜂について学ぶおすすめ書籍7冊比較まとめ

蜂、ミツバチ、養蜂の書籍まとめ

以前に地元で蜂蜜品評会の審査員の依頼を頂いたことがありまして、商品開発や販路開拓の専門家枠として受けたことがありました。とは言え養蜂そのものについては門外漢でしたから、事前にミツバチや養蜂の関連書籍をまとめて購入してざっと目を通してから臨んだわけです。

こういう審査員だったりアドバイザー的な役割で専門家として呼ばれる場合には「正直フィーも最低限だしそこまで事前準備に労力かけなくても良いから!」とか言われることも少なくないのですけれど、職業病といいますか企画書を作成する場合と同じように事前に知識として入れておきたくなるんですよね。それによって自分自身にとっても現場で考えたり吸収したり発言できることが深くなるはずなので。

ざっと「子ども向け」「入門書」「学術書」「洋書(訳書)」などからAmazonレビューも軽く参考にしつつ適当に選んでまとめて購入するのが私のやり方です。どの本が自分にとってベストかは読んでみなければわからないですし、どのような本でも何かしらの学びは得られるので半ば直感で選んでしまうのが良いですね。

今回はミツバチ・養蜂関連の手元の7冊をご紹介します。

『農家になろう2 ミツバチとともに[養蜂家 角田 公次]』(写真 大西 暢夫、農文協 編)

まずは子ども向けのビジュアルブック「みつばちとともに」。小学校の図書館にあるような読みやすい本で、大人にとっても入門的な位置付けで気軽に読める1冊。専門的な知識が欲しい場合は特に、子ども向けの最も簡単な書籍にも目を通してみることが大切です。

本書は群馬県の赤城山麓にある角田養蜂場の角田公次(つのだ ともじ)氏を被写体として、写真家の大西暢夫(おおにし のぶお)氏が春夏秋冬を通して取材したもの。角田氏はご夫婦で50年にわたって養蜂を営んでいるとのことで、40ページにも満たないページの中にご夫婦の蜂飼いとしての暮らしや思いがぎっしりと詰まっているように感じる良書です。

ミツバチ1匹の体重はわずか0.1グラム。生まれてから死ぬまでのあいだに数千キロを飛ぶともいわれる。そして、一生かけて小さなスプーン1杯ほどの蜜を集める。

ミツバチ1匹が一生かけて集める蜂蜜の量ってたったスプーン1杯程度なんですよ。蜂蜜って(ちゃんとしたものは)比較的高価なイメージがありますが、どれだけの数のミツバチがその命をかけて集めたものなのかを考えると納得がいきますよね。

ちなみに巻末には「解説」として養蜂やミツバチについての更に詳しいテキストが3ページ分でまとめられていて読み応えがあります。本文と同様にここにも全て読みがなが振ってあるのも丁寧です。

『新特産シリーズ ミツバチ 飼育・生産の実際と蜜源植物』(角田 公次 著、農文協)

まとめて購入した時には著者を全く気にしていなかったのですが、前述の「ミツバチとともに」の角田公次(つのだ ともじ)氏の著書でした。「農文協」というのは「一般社団法人 農山漁村文化協会」の略ですね。

「1997年3月5日 第1刷発行」なのですが、手元の1冊は「2018年4月25日 第20刷発行」となっていますので長年読まれ続けている本なのだなと。章立ては以下の通り。

<目次>
はじめに
第1章 魅力あふれるミツバチを始めよう
第2章 ミツバチ導入までの知識と準備
第3章 安全確実な蜂蜜生産のために
第4章 蜜源植物の基礎知識
第5章 蜂生産の生産と販売

内容としては「飼育・生産の実際と蜜源植物」と副題にあるように、角田氏の数十年にわたる養蜂経験からかなり広範囲の知識やポイントが網羅されている1冊になっています。

本文が全ページモノクロなのでビジュアル面での物足りなさはありますが、植物などについてはスマホやパソコンで画像検索しながら読めば問題ないですし、寧ろテキスト中心であることは角田氏の考え方や思いを読むことに集中できて良いかもしれません。

ちなみに本書冒頭の「はじめに」の部分で、編集部から最初に執筆依頼があった時のことについてこんな言葉がありましたので引用します。

もとより草深い農家の「おやじ」で、学者でも研究者でもない私には書けませんと再三おことわりしたのですが、強い要請に抗しきれず、意を決して書くことにしました。
その内容は幼稚であるかもしれませんが、35年間の経験を無駄にしないで、同じ道を志す方々のために、いくらかでもお役に立つならばと念じつつ記述いたしました。この本によって、ミツバチや養蜂についての理解が少しでも深められるならばと思います。

1997年時点の「35年間の経験」という表現ですが、当時の角田氏の本書に対する丁寧な思いとスタンスがよく汲み取れる文章だと思います。

実際のところ「学者でも研究者でもない」ということで科学的にというよりも経験則に基づいた記述が多いのですが、この冒頭の文章を頭に入れることで本文の全てを「養蜂農家の哲学」として読めるような仕掛けになっているように感じます。

『誰でもチャレンジできる! イラストマニュアル・はじめての養蜂』(高安 和夫 監修、東雲 輝之 著、秀和システム)

都市型養蜂に取り組む「銀座ミツバチプロジェクト」監修の養蜂入門本。

と言っても都市養蜂については本書の冒頭で「飼う場所が無いって思うかもしれないけれど、銀座ミツバチプロジェクトは都市型養蜂に成功しているから家庭菜園の脇でもできるよ!」というような納得する材料として触れられていたりコラムで紹介される程度。

本文についてはプロジェクト紹介ではなくて「養蜂入門」としてしっかりとしたテキストとなっています。章立ては以下の通り。

<目次>
本書の使い方
まえがき
第0章 はじめての養蜂Q&A
第1章 おしえてミツバチ
第2章 養蜂道具を知ろう
第3章 ミツバチ生活をはじめよう
第4章 蜂蜜の恵みをいただこう
『巻末資料』

教科書・参考書的な編集デザインになっていて全ページカラーでイラストや写真も随所に使われているので、パッと見は読みやすい1冊です。

ただしこの「教科書・参考書的」というのは良くも悪くもという部分があって、ビジュアルとテキストが融合したデザインではなく「テキストの合間に写真やイラストを配置している」というデザインなので好き嫌いがあるかもしれません。

『ニホンミツバチの飼育法と生態』(吉田 忠晴 著、玉川大学出版部)

玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター教授、農学博士の吉田忠晴氏による専門書。

全ページモノクロで「大学のテキストっぽい」編集・デザインと言えばわかりやすいのかなと。専門書を横断的に読む場合にはこういう大学テキスト系専門書も目を通してみるのがおすすめ。

前述の蜂飼いである角田氏のような方の語り口と、本書の吉田氏のような研究者の語り口は同じ「養蜂」をテーマとしていてもかなり異なってくるものです。例えば比較しながら読むと角田氏の著書は「蜜源植物」についても1章分扱っている一方で、本書では特に項目立てされていません。

反対に歴史的背景などについては本書のような研究者による専門書に詳しい場合が多いので、知識を補強する場合には有用となる場合が多いんですね。

データやエビデンスに基づいた記述はもしかしたら「固くて読みにくい」と感じるかもしれませんが、結局は「言い換え」であったり「切り口の違い」であったりする場合もあるので勉強になります。

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『ミツバチの会議 なぜ常に最良の意思決定ができるのか』(トーマス・シーリー 著、片岡 夏実 訳、築地書館)

ここからの3冊は洋書の訳書です。専門書はどうしても海外の書籍の方が詳しいというか充実している場合が多いので横断的に読む場合には海外著者の書籍も入れるのがおすすめ。

本書はハーバード大学でミツバチの研究により博士号を取得した著者による、ミツバチの意思決定についての謎を解き明かす1冊。

「ミツバチの群れは新しい巣の最良の選択についてどのように意思決定しているのか」ということについて徹底的に研究した経緯や手法や議論の詳細を280ページ以上のレポートとして編み上げています。読み物としても単純に面白いのが流石。「フィールドサイエンス」の醍醐味を味わうことができる良書。

このミツバチの意思決定研究を通して「民主主義において集団が最良の選択をするにはどのような要件・プロセスを必要とするのか」という「人類への応用」を考えているのも興味深いところです。

『ミツバチの教科書』(フォーガス・チャドウィック/スティーブ・オールトン/エマ・サラ・テナント/ビル・フィツモーリス/ジュディー・アール 著、中村 純 監修、伊藤 伸子 訳、X-Khowledge)

ビジュアルにもこだわっていてデザイン性も高い大型本です。

<Contents>
なんとも不思議な世界のハナバチ
ハナバチを引き寄せるために
養蜂を楽しもう
ミツバチの恵みを楽しむ
索引
著者紹介

目次としては上記のように単純なのですが、「教科書」と謳っているだけにフルカラー約220ページの中に非常に細かく興味深い情報が写真やイラストともに張り巡らされています。この写真やイラストも「単に配置しました」という味気ないものではなくて、しっかりとテキストと合わせて頁全体がデザインされているのが良いですね。

1冊を通して体系的に学ぶものというよりは、雑学的な情報の集合体といった副読本的イメージと言えば良いでしょうか。子どもの頃に図鑑や辞典・事典を読むのが好きだったなぁと思い出しました。読んでいて楽しいですね。かなりおすすめです。

それにしても本書は定価で税別2,800円なのですが、この価格でこのクオリティを出せるのって凄いなぁと感じます。日本の書籍って専門書だと特に発行部数が少ない関係もあって全ページモノクロでデザイン性もほぼ考えられていないのに2,000円とかするんですよね。

横断的に様々な書籍を読んでいくと、価格と内容とデザイン性のバランスのいびつさに気付かされることが多いです。仕方がないことではあるのでしょうし高いから買わないということも基本的にはないのですが、海外の書籍を邦訳した書籍って総じてレベルが高いので考えさせられますよね。

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『世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑』(ノア・ウィルソン=リッチ 著、原野 健一 日本語監修、矢野 千秋・寺西 のぶ子・夏目 大 訳、河出書房新社)

本書も「百科事典」と謳っているだけにビジュアルにもこだわっている大型本。

前述の「ミツバチの教科書」はイラストと写真を組み合わせたビジュアルでしたが、本書は基本的に写真が重視されています。

そういう意味ではどうしても本書は「写真とテキストを読みやすいように配置している」という構成になりがちではありますが、「ミツバチの教科書」よりも全体が体系的に構成されている印象で読み進めやすいかなと感じます。

<目次>
ハナバチの出現
第1章 進化と発達
第2章 体のしくみと生態
第3章 社会と行動
第4章 ハナバチと人間
第5章 養蜂
第6章 世界のハチ事典
第7章 ハチが直面する問題
資料編

目次を見るだけでも全体の理解の流れが意識されていることがわかりますよね。もちろん項目毎に独立して読んでも問題ありませんからパラパラと興味がありそうな部分だけピックアップするのも良し。

本書は基本的にテキスト量が「ミツバチの教科書」よりも多いので「読ませる図鑑」という感じでかなり読み応えがあります。

ちなみに「ミツバチの教科書」も「世界のミツバチ・ハナバチ百科図鑑」も日本語版監修をしているのは「ニホンミツバチの飼育法と生態」の著者と同様に「玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター」の教授・准教授陣になっているなと玉川大学の公式サイトを検索。

<玉川大学学術研究所ミツバチ研究センター>(玉川大学公式HP)
https://www.tamagawa.jp/research/academic/center/honey.html

本研究センターは、日本で唯一のミツバチに関する総合研究機関として、1950年以来、玉川大学農学部で続けられてきたミツバチ研究の成果を受け継ぎ、さらに発展させるために1979年に設置されました。

ということで日本におけるミツバチ研究の最先端がこの「玉川大学学術研究所ミツバチ研究センター」なんですね。

余談的になりますが興味あることを職業にするには関連書籍を読み漁って登場人物を辿っていくのも面白いぞと子どもには教えたいものです。

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まとめ

仕事柄、様々な業種や分野に触れさせていただく機会が多いのはありがたいことです。「取り敢えず来てくれ」レベルの話もありますが、それをきっかけにして自分自身の知識欲を満たしたり考えや見識を深めることに繋がるわけですから。

蜂蜜をきっかけとしたハナバチ・ミツバチの周辺情報という流れはもちろんのこと、「フィールドワーク」そのものについての面白さを知る機会にもなったりするものです。また書籍を比較するとで編集・装丁・デザイン・フォントなどについても学びがあります。

また海外の邦訳本の論理構成だったりデザイン性を見る度に「なぜこの水準が日本の書籍ではあまり実現されていないのだろう」ということも考えさせられます。装丁は日本版に合わせてリデザインされている場合もあるかもしれませんが。

ちなみに私自身が養蜂家になるつもりは(今の所は)ないのですけれど、毎年庭の花にミツバチが遊びに来ているので将来的にちょっとした観察かフィールドワークが子どもと一緒にできると楽しそうだなぁとは感じていたりします。ではまた。

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