書評

わたしを空腹にしない方がいい -くどうれいん-【書評】

ORIORI(さわや書店)にて

おめはんど顔っコ上げてくなんしぇとアカシアの花天より降りけり
全国高校生短歌甲子園 2011.8

「くどうれいん」という作家がいる。

漢字で書くと「工藤玲音」。

彼女はどうやらその名に受けた「rain=雨」をセルフブランディングの核としながら物書きの人生を歩んでいるらしい(これは人に聞いた話なので不確実かも)。

最近まで知らなかったのだが実は同じ高校出身ということを聞いて(もちろん世代は10年程離れているが)、さらに最近出たばかりという「わたしを空腹にしないほうがいい」を買ってきた。せっかくなので書評を書こう。

ちなみにくどうれいんさんは岩手県盛岡市出身。地元の作家ということで盛岡駅1階のさわや書店フェザン店にならあるかなと行って在庫を聞いてみたら、3階の「ORIORI produced by さわや書店」にあるとのことでそちらへ。結構なスペースで特集されていたので、彼女が写っている「てくり 26号」と一緒に購入。発行所でもある盛岡市紺屋町のBOOKNERD( http://booknerd.jp/ )でも取扱中。2018年9月13日に既に第2刷とのこと。

 

これは「食べもの」で綴る幸せのレシピ

俳句と随筆で綴られていく日常の風景

80頁弱のこの本だから、あまり詳しく書いてしまいすぎないようにしたいが、構成としては下記のようになっている。

・「おいしいひとりぐらし」(2016年6月1〜30日)

・「満腹は遠く」(2017年6月の4日)

 

・おかわり対談1日目「毛蟹×くどうれいん」

・おかわり対談2日目「吉田玲奈×くどうれいん」

 

・あとがき

基本的には1日1本、俳句と随筆文がセットになっている形。お腹が空くと怒りっぽくなったり感情が動きやすくなる女の子の、「食べもの」を軸にした風景が時に軽快で時にしっとりとした文体で綴られていく。

「食べもの」と心が紐づく時間と言葉

タイトルの「わたしを空腹にしないほうがいい」は冒頭6月1日の俳句「芍薬は号泣をするやうに散る」に続く1文だ。本書でこの文が出てくるのは数回だが、心象風景のベースとしてはこの言葉がずっと流れ続けている。

一人の子の赤裸々な心の動きが「食べ物」とひも付きながら心地よく展開していく文章は眼前にその光景が広がるようで引き込まれる。

あと一応言っておくと、この本は「料理本」のたぐいではない。時にちょっとしたコツやレシピ的なものも出てくるが、あくまで「食べもの」を材料としてその楽しみ方を「生活・風景」として提供してくれるような内容だ。その瞬間瞬間が「おいしい!」「楽しい!」を作っている。その小さな幸せのコツというかレシピというか。そんな本なのだ。

中には「悲しい!」もあるが、それらも総じてまるっと「幸せ」を感じてしまう。これは彼女の文体のおかげかもしれないし、時にウィットの効いた語り口のおかげかもしれない。

対談も、あとがきも。

最後の一口まで味わえる

本書は元々WEB連載されていたものをZINEとして発行した「わたしを空腹にしないほうがいい」をさらに改訂版として出版したものらしい。この改訂版に合わせて巻末に追加された対談が2本入っているのだが、これもまた楽しい内容だ。

対談は著者の高校の同級生でもあり映像制作を手がける「毛蟹」さん、盛岡市在のフリーランス料理家「吉田玲奈」さんの2本立て。

本文でも恋愛のことなどまで結構せきららな感情を吐露していて、だからこそ等身大で伝わってくるものがあるのだろうと感じているのだが、対談でもそのまんまだった。

1文だけ著者の言葉を抜き出してみよう。

 

デートの途中でものすごく不機嫌になって(察してくれ)のオーラを出してきたので、機嫌が悪いんだったらもっとわかりやすく、不快そうな音楽流すとか機嫌が悪そうに発光するとかしてくれって言ったんですけど

 

生き方のスタンスというか、この本の雰囲気が伝わればと思う。ちなみに、彼氏にムカついて喧嘩するから河原に行こうと無理やり手を引いて連れて行ったという内容に続く文章だ。

あとがきも同様。等身大の著者のことばがそこにある。

 

まとめ

改訂前のオリジナル版は今は手に入らないが、横書きで1ページに1テーマ、そしておそらく著者が撮影した写真も切手サイズくらいに小さく掲載されているような体裁だったようだ。

本書では対談以外には写真が使われておらず、代わりに山崎愛彦さんの挿絵が所々に。結果として世界観がうまくまとまって1冊の本としても完成度が高いデザインになっている。くどうれいんさんの文体も装丁によってさらにいきている。と感じた。

盛岡駅に行ったら、ORIORIに立ち寄って、ぜひ手にとってみて欲しい。どこから読んでも構わないので、パラっと見て惹かれる部分があったら買ってきて手元に置こう。

最後にお気に入りの俳句を引用して終わりにしたい。

 

ファインダーとまつげの間まで薫風
6月9日 本書18pより

 

どんとはれ。

 

<プロフィール引用>

くどうれいん

工藤玲音。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身、在住。宮城大学卒。コスモス短歌会会員、俳句結社「樹氷」同人、いわて故郷文芸部ひっつみ部長。第7回岩手日報随筆賞で当時史上最年少の最優秀賞受賞。さだまさし作曲「ふるさとの風」の作詞を担当。光文社『ショートショートの宝箱』(共著)

 

 

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