観光や商売の話。
流行りの言葉で「おもてなし」がすっかり定着した観光業界ですが、「ふるさとで生きる。」をテーマとして取り組んでいる私の肌感覚からすると、特に個人の気軽な旅行客がこれから求めるのはもっと心理的距離の近い「愛嬌」なんじゃないかと考えています。
「おもてなし」はお客様。
かつては団体客を外回り営業が連れてきた
観光客に対して、地域や企業という立場から「お客様を受け入れましょう!」というのが「おもてなし」です。
ここでは「受け入れる側=サービス提供者」と「受け入れられる側=観光客」という2本の軸があって、お客様は神様的な意味合いに近い「大歓迎のムードを作ること」を目指します。2本の軸の片方、受け入れる側に対するアプローチです。
特に観光系サービスの質を上げていくには、まず受け入れ側の姿勢・体制を整え盛り上げていくことは必要です。特にかつての観光ブーム&バブル期のように、黙っていても全国からツアー団体客が舞い込んでくる時代であれば、現地のサービス提供者は少しくらい適当な対応でも経済が回っていたのかもしれません。特にツアー観光客は着地後の選択肢がほぼなく、予定通りに観光地を見て、少しの自由時間を渡されて、お土産を買って、帰っていくわけです。
受け入れ側の姿勢を求められるというよりは、外回り営業の団体客獲得力が重視されるようなイメージです。着地型観光の受け入れ側は、そのルートにお土産屋を開いて、ただ待ってたまに声掛けする。2018年の春に岩手から北陸地方の日本海側を通り福井まで車で往復旅行したのですが、東尋坊にそのようなある意味懐かしいシステムが残っていて驚きました。
個人客から直接選ばれる時代の「おもてなし」教育
しかし時代は個人旅行。時間と行程を旅行客が全て主体的に選ぶ時代。観光地は「旅行客個人個人から直接選ばれる」ことになります。
この流れの中で「おもてなし」というワードが全国的な旗印になるのはわかりやすい結果です。各観光地の受け入れスタッフに対する説明や説得根拠としても、使いやすくイメージしやすいという事情もあるでしょう。「マナー」をマネタイズする業界にも都合が良かったのかもしれません。少なくとも2020年までは使い続けられますし。
その一方で、個人旅行客の感覚は常に変化し続けます。その変化と潜在ニーズに敏感な企業は、個人旅行客向けの新たな課題解決型の旅行サービスを始めつつあります。ここ2年ほどで旅行業界の力関係も大きく変わっていくはずです。
それでは「おもてなし」の次に旅行客を呼び込む重要な要素は何になっていくのでしょうか。
「愛嬌」は受け入れられ感。
旅行客に近づき寄り添う
それが「愛嬌」だと考えています。
「アイキョウ」とカタカナにして別な意味も乗せるとか「I k you(kは何かの略として)」としてみるとか何かそれっぽくコンセプト建てすることもできますが、ここではそのまま「愛嬌」とします。
振り返ると「おもてなし」は「受け入れる側」と「受け入れられる側」の2本の軸で、「受け入れる側」に対する質の向上を狙うものでした。これに対して「愛嬌」は双方をもっと近い関係として捉えるものです。
歓迎ではなく受容
旅行客と心理的に近づき、まるで久しぶりに田舎にでも帰ってきたかのような安心感を与えられること。普段の忙しくストレスフルな生活から離れてリフレッシュするために旅に出た旅行客を家族親戚のように受け入れること。
これから数十年で日本の人口も信じられないスピードで減っていきます。一方で働き方もさらに自由になり、技術が物理的距離の課題を解決し続け、休暇の定義も変わっていくかもしれません。インフラの整備や自治体の維持の問題まで影響が広がっていく激動の時代に「旅」のあり方も変わっていくことでしょう。
その中で、旅の先に求めるのは歓迎ムードよりも「一人の人間としての受容」となっていき、それがつまり「愛嬌」をベースとしたコミュニケーションだと考えるのです。
まとめ:心理的距離の近さが動機になる時代へ
Instagramがいつまで存在するのかはわかりませんが、2018年現在の日本国内の「インスタ映え」流行に対する観光地のトーンは「インスタ映えする商品・メニューを作ろう」とか「フォトジェニックなポイントを紹介しよう」といったもので、これらは基本的に「モノ・コト」からのアプローチです。
撮影者はその景色や商品のみか、自分も写真に入れた「自撮り・セルフィー」で写真撮影してSNSに投稿しています。自分以外の芸能人や有名人という要素がそこに入っていくる場合は別ですが、これはあくまで記念写真の範疇です。
さてこれからの「愛嬌」をベースとした観光戦略では、もう少し「ヒト・コト」に近いコンテンツが盛り上がってくるのではないかと思うのです。サービス提供者にとっては、これまでよりも更に個人個人のパーソナリティに紐づく質の向上が求められることになるでしょう。
その中で、例えば閑散とした観光地の売店で1日中お客さんを待って暇そうに立っているような働き方に対して、その「何も生み出していない時間を価値化する」アプローチが普通になっていくはずです。SNSを介して情報を発信し続けてもいい。5G(第5世代移動通信システム)が普及すれば距離によるタイムラグもなくなりさらにコミュニケーションが近づいていくでしょうから、より「愛嬌・心理的距離」で選ばれる時代に進むのではないでしょうか。
この視点でのサービス、商品開発も想定していきたいと考えています。