個人事業主とかフリーランスって安定的な収入が必ずしもあるわけではないので、とにかく不安な時期は何でもかんでも仕事を受けようとしたくなるものです。それは相手が大切なクライアントで、信頼関係だとか貸し借りを含めたビジネス的な間柄の中でのものであれば必要な場面もあります。とにかく困ったときにフットワーク軽く力になってくれる協力機関というのは誰でも欲しいものですし、それが経営的な安定につながることもあります。
ただ、ある程度の事業的な安定だとか拡大だとかの局面になった場合には精査が必要になります。ここからは経営という視点で判断していくことになります。
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最低賃金で1年365日24時間働き続けるといくらになるのか
ひと一人がこなせる作業量は最大でも1日24時間、年間365日です。休み無しで働き続けてもこれ以上のものにはなりません。このあたりの具体的な金銭感覚って本当なら小学校あたりから教えても良いんだろうなと思います。
たとえば岩手県の最低賃金は762円。仮にこの基準で一年間休み無しで働き続けると、762円/時×24時間/日×365日/年=6,675,120円/年。最低賃金だと一瞬も休まずに働き続けてもこれです。多いと感じるでしょうか、少ないと感じるでしょうか。
岩手県って平均年収が全国最下位レベルで低いので、肌感覚だと年齢×10万円がおおよその年収基準になるはずです。一般企業の上位はメディア・金融関係で、それでも1.5〜2倍程度なのかなと。
目指す生き方と働き方に求められる時給価値はどれくらいか
さて、これを基準に働き方を考えていかなければなりません。まず1日24時間働くわけにはいきませんので8時間にしましょう。労働時間がここで3分の1ですね。さらに「せっかく自由な時間の使い方ができるなら1年のうちの半分は休暇(またはインプット期間)を取りたいなぁ」と考えたらどうでしょうか。全体として、労働時間は元の6分の1になりますね。
年間合計額を最初の基準から変えないのであれば、時給を6倍にする必要があります。762円/時×6=4,572円/時。この価値を生む仕事ができるかどうか。さらに言うと売上=手取りというわけではありませんから、仮に売上から経費やら税金やら引いていって残るのが半分だとしたら「売上は倍」にする必要がありますよね。4,572円/時×2=9,144円/時。
ということで、1時間1万円程度の価値を生み出し、利益率50%で、1日8時間、年間180日働けば、やっと最初の基準をクリアできることになります。これで計算すると720万円になりますね。売上ベースとしては1,500万円程度。
フリーランスが人らしい生き方を保てる働き方のライン
個人事業主・フリーランスとして5年目の感覚ですが、このあたりが1人で動くには最初の限界値なのかなと感じます。事業所としての単価が上がってくるとある程度は伸びるかと思いますが、「ちゃんとプライベートの時間も取って人間的な生活をしながら働く」ことを考えると売上1,500万円程度が一つのラインになる気がします。1日5万円×年間300日稼働(週1日程度休み)という基準でも同じです。そして外注費、各種経費、各種税金などを差し引いても半分残ればかなり上々。
もちろんこれは何を生業にするかによっても違います。例えば仕入れ販売だと利益率20%ということもあるでしょうから、720万円基準とすると5倍の3,600万円が売上目標となります。反対に経費等が0に近づけば目標も720万円に近づきます。また課税売上額が1,000万円以上になると消費税課税事業者になりますので、「1,000万円にはいかないくらいで利益率をできるだけ上げていくのが良い」なんてよく言われたりもします。
但、税金などはどうしてもかかりますので最終的に課税所得に対して所得税10%以上、市県民税10%、事業税5%、国民健康保険料10%程度(これは必ず払うものとして)、合計35%以上は納税・納付することになります。あと年金なども入ります。※自治体によって基準が異なる場合などもあるので数値はここではざっくりの感覚として見てください。
ラインを決めた上での仕事の価値と単価設定
さて、この基準を考えたときに(今回の計算だと)1時間1万円以上の価値を生まない仕事は取捨選択が必要となります。その時間単価でできる仕事であればOK。これが8時間はかかる作業量なのに2万円しかつかなければ、必ずしも受けるものではなくなるかもしれませんよね。同じ時間を他の単価が見合う仕事にあてる方が売上につながるからです。
ここの判断基準は様々です。経費がかからないものであればある程度は幅を持って受けることができるかもしれませんし、クライアントからの年間受注額が大きい場合には一つ一つの仕事に凸凹が出ても構わない場合もあります。何かしらの思い入れがある先であれば利益度外視でお手伝いすることもあるでしょう。個人事業主としての経営のバランス感覚が問われるところです。
ちなみにある程度の実績を積んでいる立場であまりに安い単価で仕事を受けることは次に続く若い世代の仕事を奪うことにもなりますから、それぞれの世代にとっての役割に見合う単価で働くことも大切です。同じ地域の近い業界だと、ベテラン勢の価格設定が一つの基準になることがあります。
一般的な会社だと「工数」だとか「受注単価」が設定されているので、見積もりを出して合えば受注ということも普通かと思いますが、個人事業主・フリーランスの場合は曖昧になりがちです。スキルセット、実績やレベルに合わせて単価設定をしっかりと決めて、毎年見直すことをおすすめします。
まとめ
年間の稼ぎについては結構ふわっとしがちな個人事業主・フリーランス。しっかりと事業計画を立てて毎年更新している方は大丈夫かもしれませんが、店を持ったり、仕入れ販売をしている個人事業主でもなければあまりそこまでやっていない人も実際は多いと思います。
まぁ事業計画的なものはフリーランス的な働き方には必ずしも必要ない(必要以上に時間を取りすぎるのは無駄)というのが私のスタンスですが、自分自身の時間単価についてはある程度意識した方が良いと考えています。場合によっては作業料金表を規定として作ってしまうのも話が早いかもしれません。実は今年このあたりリサーチかけてまして、次年度以降の働き方については再定義していく予定です。
ネット上ではめちゃくちゃ派手に稼ぎまくっているようなフリーランスの事例もみるかもしれませんが、そこまでの大金ではなくても堅実な働き方を極めていくのが性に合っている方もいるはずです。誰もが(簡単には)ヒーローにはなれないですからね。現実的な計算から商売を考えはじめるのも面白いですよ。