働き方

企画業における「挑戦」と「堅実」のゆりかご。

同じ仕事を長年続けていると、良くも悪くも蓄積されたノウハウや先入観が革新性を奪っていくということが起こり得ます。市場もお客様も変化し続けているのに、10年以上の知見からその実情が見えなくなってしまう可能性があるということです。企画業としてのアプローチやスタンスについて一考。

企画における「挑戦」と「堅実」の狭間。

企画業をしていると基本的にはクライアントがいて、そのクライアントの希望・要望を汲み込んだ上で情報や顕在化していないコトを見出して整理し、事業のコンテンツやプロダクトのコンセプト等を企画としてまとめていきます。場合によっては事業運営までトータルでお手伝いすることもあります。

この際、多くの場合は「加点式のチャレンジ」と「減点式の堅実さ」の狭間に揺れ動く場面があるものです。前提条件として、当記事では主に国や自治体の公的予算を使って何かを実施する場合について述べます。

加点式のチャレンジ

「加点式のチャレンジ」とは、これまで挑戦していなかった新たな試みを意欲的に試しているようなことです。新しい取り組みを加点方式で積み上げていくイメージです。特に事業予算が国や自治体などから出ている場合、企業単位ではなかなか経費をかけて取り組めないことに挑戦する機会となります。例えば通常の企業では、1,000万かけて1,000万以上の売上に繋げられなければ失敗です(実際は利益額で考えなければならないので利益2割なら1,000万かけて5,000万以上の売上ですね)。

これがPR事業などの場合、直接の事業者利益にすぐにつながらなくても、「プロダクトや地域をPRすることで周知し、中長期的な経済効果を生み出す」といったことに取り組むことができます。

昨今の「原価主義」的な世論からすると、事業系の予算でも短期的な結果を求められることも増えてきてはいますが、本来は短期的な結果を出せるものは企業単位の経営の中でもできるので、公的予算のPR事業やイベント事業についてはそこから漏れてしまうような中小企業や広域エリアを対象として「単純な経費・売上バランスではない取り組み」が必要です。もちろん、税金を活用した事業の場合には結果を全く求めないわけにはいかないので、経済効果であったりメディアの広報費換算などで効果報告をすることにはなります。

企業単位では取り組みにくいことについて、このような企画案件では革新性を持って(と信じて)挑戦することが大切だと感じます。景気が悪いほど余白的な遊びが削られていきますから、お祭り的な「そんなことやるの?!」みたいな挑戦ってしにくくなっていくものですが、地方であればあるほどこの挑戦の姿勢は重要になっていくと感じます。

減点式の堅実さ

この一方で「減点式の堅実さ」についても考えなければなりません。これは「何か新しいことに挑戦して失敗するよりは、いつもどおりに堅実に済ませた方が良い」という立場と考え方です。できる限り減点されないようにするということで、挑戦したいときの壁になります。新しい取り組みは結果がどのようなものになるかの前例がありませんから、それで思うような結果が出ず失敗と見られるくらいなら、前例のある「いつも通り」の方法でやりましょうということです。

この仕組は非常に簡単で「減点」が誰にかかるかで決まります。例えば「担当者」であったり「団体」であったり。特に担当者がその単年度事業実績で評価されるような組織に所属している場合は「堅実さ」を求められる傾向にあります。

毎年続けられてきた事業であれば、ここで改めて新しいことに取り組んで前年よりも結果が出なければ「新たなことに取り組んだ担当者の責任」になります。一方で、取り敢えず前年踏襲していれば結果が悪くても「その組み立てをしたのは前任者」であったり「結果が出ているものを継続したわけだから微減でもしょうがない」と担当者の責任が軽くなるんですね。波風立てるよりは静かにいきたい。しかもそれが評価や給与につながるなら尚更。みたいな感覚です。

企画立案上の「挑戦」と「堅実」のバランス

もちろん、革新性を持って新たな取組をすることを評価する組織もありますが、中々挑戦しにくい環境にある組織も少なくないでしょう。企画立案に際しては、このクライアント事情も汲み取った上でのバランス感が大切です。

何が何でも革新性を求めればよいかといえばそうではありません。何かを始める時って「前例を否定する」のが楽ですよね。否定することで自分の優位性を主張できるからで、これはマウンティングの一種です。Twitterで見る「会社員を全否定してフリーランス最高」みたいな論調も同じこと。これ系は会社勤めで傷付いた経験から自己肯定をする必要性に迫られている場合も多いでしょうから過激目な極端な論調になりがちです。その裏側だったり経緯を察すると仕方がない面もあるだろうなとも感じますが。

企画を考える際にも時に「否定」が必要になることもありますけれど、基本的には「これまでのストーリーを肯定した上で、次の一歩を模索する」のが健全だと感じます。この意味で「減点式の堅実さ」もある程度必要で、クライアントの「これまで」と「今」を肯定して最大限尊重した上で、堅実さをベースにして革新性を付加していく方向性が個人的なスタンスになります。

変わらなければ時代の流れに置き去りにされてしまうけれど、だからといってこれまでの全てを否定するのではないということ。それは世の中の流れに対して「アップデートする」とか「チューニングする」とか、そんな言葉で語られる場面もあるかもしれません。「2.0」とか「3.0」とかもそうですね。

まとめ

企画案件で課題解決をしていこうと考えるとき、これらのバランス感覚が重要になります。どうあるべきか、何を尊重すべきかという俯瞰的な要素に加えて、クライアントの担当者レベルでの諸事情によるスタンスも要素として絡んできます。

「ここで新たな取組をすべきだ!」という使命感を持って仕事に取り組む熱意も必要ですが、もしクライアントの担当者が「ここで何か新しいことを実施して失敗したら減給になって家族を養っていけなくなるかもしれない」みたいな事情を抱えていたらどうしますか。前者は社会的な利益につながるかもしれません。後者はごく個人的な事情です。

こんなの比べる必要があるだろうかと感じられるかもしれませんが、結局は仕事も世の中も人と人との折り合いです。私であれば、どちらも最大限尊重できるような企画と仕組みを生み出せないかを考えます。または担当者の上司に理解を促すことが私からできないかも検討します。担当者評価がネックなのであれば、組織へのアプローチで解決できるかもしれません。大義も結構。でも関わる人すべてができる限り前向きに仕事ができる方がよいですよね。

この環境整備だったり根回しも、企画やディレクションの仕事です。複雑に織り上げられた数々の課題をできる限りほどきながら、最終的に地域や企業の次の一歩につながる何かに取り組んでいくこと。表には出ないことが殆どなので決して華やかではありませんし泥水を啜ることもありますけれど、何かしらの結果が出ることを目指し続けること。

このあたりのコツって仕事というもの全般に応用できるものかなと感じます。ネックの根源がどこにあるのかということですね。担当者レベルの個人的な事情だったりする場合もありますが、そこをどう解いていくかも仕事の醍醐味です。革新性と堅実との狭間で揺られながらもがくことに興味がある方は、是非、企画界隈ににきてみてはいかがでしょうか。面白いですよ。

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