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企画における物語性について「震災復興」の一視点から考える。

例えばイベントや商品の企画を立てる時、それらに触れた生活者・ユーザーがどのような理解の流れで物事を捉えるのかを考慮する必要があります。どれだけ良いものでも、伝えるべきポイントがあやふやであれば十分な訴求ができないということです。

「物語が大事」の本質ってなんだろう。

表面的に「ストーリー性がある」ということではない。

よく企画や開発の現場で「ストーリー・物語が大事だよ」なんて聞きますよね。言葉で言うのは簡単なのですが、意外とこのポイントって正確に理解されていない場合があるものです。商品に込められた思いだとか、開発の裏側だとか、生産の現場の物語だとか。これらは付加情報としてパンフレットやパッケージやチラシの一部で語られることが多いのですが、この物語自体をどう伝えるのか、直接語るのか・敢えて語らないのか、どうしたら体感・共感してもらえるのかということに挑戦することが重要なのです。

震災復興を背景として考えてみると。

例えば、東日本大震災から7年が経ちましたが、私の故郷である岩手を始めとした被災地の復興状況はどのようなものでしょうか。道路整備や鉄道復旧、商店街の本設移転、仮設住居から新たな住宅街への引っ越しなど、この1〜2年でそのフェーズはまた進み続けています。これは被災3県(岩手、宮城、福島)の復興計画に基づいて進められているもので、各県の計画年度や内容は別々ではあるものの、全体としては2018年までの復興基本計画の中で動いています。岩手も平成29年度〜平成30年度を復興実施計画の第3期「更なる展開への連結期間」と位置付けており、震災後の基本的な復興としては平成30年を一つの区切りとしているわけですね。

この一方で、震災から7年が経って他の地域でも別の震災や台風災害などが毎年どこかで起こり続けています。もしかしたら今現在「震災」という言葉で最初に思い浮かぶのは、東北であれば東日本大震災だと思いますが、他の地域では熊本の震災だったり直近の大阪の地震・台風被害かもしれません。また、阪神大震災を経験された方にとっては「震災」といえば今もこれからも阪神大震災のままかもしれません。各地で被災された方がいて、未だ復興の途上にある地域もあります。数字上の規模で言えば東日本大震災は未曾有の災害だったわけですが、地域・街・人にまで落とし込めば全体被害と個別被害の悲惨さはそう大きくは変わらないという見方もあるでしょう。

語られないストーリーや思いに触れるということ。

さてさて、例えば上記のような「震災」というストーリーに紐付けられた地域のイベントやプロダクトがありますよね。表面的にはそうは見えない・見せないものもありますが、私が知る限りで岩手に限ったとしても、関わる人達は東日本大震災の悔しさ・辛さや、その後の全国・全世界からの支援に対する感謝を忘れていません。地域事業者のお菓子一つ、飲料一本を取っても、「震災復興」というラベルは貼っていなくても、語られないストーリーや思いが必ずその底にあるものです。

「企画」というものを考える場合、その語られないストーリーも考慮・配慮する必要があります。被災した立場からも「今更、復興ではないよね」なんて言葉も聞くことがあります。これは多大なる支援を受け続けているからこそ、自分たちから「復興」と言い続けることはせずに勝負しようという意気込みです。「支援があってこそ生きられる時期があって、感謝は絶えないけれど、甘え続けるわけにはいかない」と考える人は震災直後から多かったように感じます。もちろん立場や被災状況によって千差万別ですから一概には言えないということもありますが。

例えば、沿岸被災地の伝統芸能の場合

このような事業者や個人個人の思いの中で、何を伝えて、何を表現するかを組み立てていくのです。敢えて言わないこともあります。仮に言いたくないと最初は思われることでも、何かのタイミングで優しめの言葉として変換して発信することを提案することもあります。例えば、沿岸の伝統芸能に携わる方々は、復興への思い・感謝の思いが強い。沿岸の伝統芸能は豊漁を願ったり、漁師の無事を願うものも多いです。それが町も人も道具も全て流されてしまい、しかし有志で復活させたような物語もあちこちにあります。

県外での岩手PRイベントの中で伝統芸能を披露する場面があるとしましょう。もしかしたら、演じる方々は恥ずかしがってあまり語りたくないとおっしゃるかもしれません。でも、この伝統芸能がなぜこの場所に来て、どのような思いで披露されるのかは伝えるべきですよね。口では言わなくても、彼ら彼女らは震災への悔しさと、仲間たちの鎮魂と、未来に向けた地域の安寧を願って舞うのです。それを知って観るのかどうかで、伝わり方って天と地ほども変わります。一つ一つの動きや表情に何が込められているのか、何を思い浮かべて演じられているのか、それらをぐるっと丸ごと伝えるのが「ストーリー・物語が大事だよ」の本質です。これは「つじつまを合わせる」程度の浅いものではないことがわかりますでしょうか。

まとめ

おそらくこれからの時代はこの「物語性」というものが更に強い動機付けになっていくはずです。「倫理消費」「エシカル消費」というものがSDGsの関連で注目され始めているのも同じ流れですね。生産地から消費者までのチェーンを明確にすることだけではなく、もう位置段階、二段階深掘りした裏付けが企画の力になります。イベントでも、商品でも、企画立案の際にはこの点を大切にしたいですね。岩手のプロダクトもまだまだ伝え方に改良の余地がありますから、私も地域の力になれるうちは更にもがいてみようというところです。ではでは。

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