働き方

出口から逆算した商品開発のすすめ

商品開発や商品改善の相談・講座講師を仕事として受けることがここ数年で増えました。

特に6次産業化関連の商品改善の場合が多いのですが、その相談内容にある傾向があるのでまとめてみます。

ここでの結論としてはタイトルの通り「出口から逆算した商品開発」を意識しようということです(「出口」とは販売店舗や棚など、商品と消費者・生活者が出会う場所とします)。

商品開発の手法については多様な方法論があります。商品・サービスの種類や特性、企業の歴史やポジションなどによって何を重視するか等は変わってきますので、場合によっては「出口よりも何を作りたいかを最優先した商品開発」が必要なケースもあります。ここではありがちな課題ケースとして「出口を意識していなかったため製造後に辛くなっている」ことへの考察です。

「売れない」相談の多くは事前に想定できたこと

守秘義務の関係で具体的なケースではなく仮想事例とします。

ここでは「6次産業化」関連商品としましょうか。

商品改善相談でよくあるのは例えば以下のようなものです。

1)商品開発したが思ったように売れず困っている。

2)パッケージの改良で売りたいが、包材に更に予算をかけることは難しいのでラベル変更などの対応でなんとかできないか。

3)製造ロットの関係で一定数作ったが売れ残っていて、その賞味期限が近づいてきていることもあり棚に出せなくなる前に売り切りたい。

4)実は売り切ってもあまり利益がない。

つまり「売れない」から「売りたい」わけですが、開発にも予算をかけて在庫を抱えている関係で大きな追加投資をするのは避けたくて「ラベル程度の刷新」で「取り敢えず在庫を売り切ってしまいたい」ということ。

同じようなことを聞いたことはないでしょうか。または見たことがないでしょうか。

一つずつ見ていきましょう。

1)商品開発したが思ったように売れず困っている。

6次産業化や農商工連携の名目で開発された商品に多い印象です。もちろん成功している商品もあるのですが、それ以上に苦戦している商品が多いように思います。

事業者の立場からすると「6次産業化」商品開発に設備投資までして取り組んでみたがうまくいかず「失敗」として捉えたことで「6次産業化」という言葉自体がアレルギーになってしまう場合もあります。

新しい商品を売るということはそう簡単なことではありません。

ブランディングやPRのポイントはありますが100%ということはなく、時代やタイミングや運(第三者がSNS発信したものが想定外にバズったなど)などのこちらで操作できないファクターも入ってきます。

予算がある程度あれば広告的なアプローチで押し上げることも可能ですがこれは比較的大きな企業の場合。予算が潤沢ではないことが多い地域の中小事業者の場合は、コストパフォーマンスも含めた戦略的アプローチを重ねる必要があります。

さらに言えば、この戦略については商品開発段階から練るべきなのです。当たり前に感じるかもしれませんが結構甘い場合が多いもので、一般的なテキストベースの計画書だけで進められたものだと机上の空論的な結果になってしまったということですね。

特に製造側の事情優先で出口想定ができていない場合、そもそも「絶対的なニーズがない」商品だったりもします。マーケティング以前の問題です。

2)パッケージの改良で売りたいが、包材に更に予算をかけることは難しいのでラベル変更などの対応でなんとかできないか。

これも結構多いです。例えば瓶詰め商品(飲料や調味料など)だと、既に製造ロット分の瓶詰め状態で在庫を抱えてしまっているわけで、やりやすいアプローチとして「ラベルを変えて見よう。コストも安いし。」という発想です。

まず、ラベル改善で売上を伸ばすことは、可能です。

これはブランディングに関わることで、商品名やキャッチコピーやPOP等をリニューアルすることで、その商品のストーリーや「選ぶ理由」がしっかりと伝わるようにします。ただし、肝心の商品そのものの質が担保されていることが前提です。簡単なことというわけではありません。息の長い商品であれば定期的なリニューアルで時代に合わせた伝え方をする必要もあるでしょう。

表現の改善でなんとかなりそうなケースというのは、商品開発段階で「伝える」ということが十分に練られていなかったことが原因です。

商品開発の中で専門家が関わることもあると思うのですが、例えばレシピ開発やパッケージデザインの専門家が入っていても企画・PR手法の専門家が入っていない場合があります。

「どのように売っていくか」「PR手法は」「顧客アプローチをどうするのか」「売り場で購買動機になる仕掛けは何か」を戦略的に練る役割がチームとして必要ということです。

3)製造ロットの関係で一定数作ったが売れ残っていて、その賞味期限が近づいてきていることもあり棚に出せなくなる前に売り切りたい。

結構深刻な悩みですよね。ロットの関係で在庫を抱えてしまって、しかも賞味期限が近づいている。

通常、取扱店舗によって店の棚における商品の賞味期限が設定されています。決められた期限に近づいたら(例えば1ヶ月前など)、リスク回避のために棚からは下げられるわけです。

この実質「店で売ることができる期限」の前に売り切るための改善を求められる場合、方向性としては「短期間で対応できるパッケージ改善」「店頭での伝え方の改善」「販売チャネルの拡大」「イベントなどで何とか売って売って売り切る」などになります。

期限が近いほど力技になりがちです。力技でもどうにもならないこともあります。なぜこのようなことになってしまうかというと、やはり商品開発段階での出口想定ができていないことです。

どの流通に乗せて、どの期間で、どのくらい売るのか。当たり前のことだと感じると思いますが、これも紙1枚の事業計画レベルで現実味の無い設計で進められていることがあるのです。

本当にものを売ろうとしたら、商品を置く想定の出口を自ら見に行き、顧客の流れや雰囲気を肌で感じて「何を伝えれば良いのか」を考える必要があります。

決して難しいマーケティング理論が必要とは言いません。商品を提供する主体としての肌感覚を持って商品開発・伝え方のポイントを自分の言葉で書き出してみるだけでも良いのです。その上で、開発チーム全体で協議してコンセプト、ネーミング、デザインなどが一貫して伝わるような設計にしていきます。

商品を作ってしまってから「どうしよう」ではなく、商品開発の初期段階から全体を意識して組み立てていくということです。

4)実は売り切ってもあまり利益がない。

元も子もないような話ですが、実際にあるケースです。

特に6次産業化関連の場合、原材料となるものの生産者が商品開発するとして、加工を自社でできず外注する場合があります。そこでコストが高くなる。さらに加工後の材料をパッケージにする部分も外注したりすると、さらにコストが高くなる。

売るにも小売価格が高くなって売れないし、だからといって値段を下げると利益が出ない。地方から首都圏に出そうとすると、例えば瓶詰め商品で重くて配送コストまで上乗せされる。ネット販売の送料も同じ。

そんなことあるの?と思いますでしょうか。あるんです。

売値と原価率、年間ロットと売上想定、そのあたりが練られていないんですね。商品開発段階で。それで良しとする・させる場面があるということです。

「とりあえずできそうなものを作る」とか、「販売・流通・出口想定まで吟味せず作る」といったことは、特に地方の中小事業者の商品開発においては結構深刻な課題です。時間や素材を含めた様々なリソースが浪費されてしまうわけですから。

「出口から逆算する」ということ

紹介してきた課題ケースのほとんどが「出口から逆算した商品開発」を意識することである程度は解決できていたはずのものです。売り方から、パッケージから、伝え方から、全てを商品開発の初期段階で並行して検討していくことが大切です。

もちろん「こんなのできたよ」がスタートで売り方やブランディングに進むこともできます。それで成功することもあります。ただしこれは稀なケースで、基本的にはちゃんとした段階を踏んだ方が確度が上がります。

業界的な課題も潜んでいます。時代にうまく乗っている地方の中小事業者も多くあります。情報を取り入れて学ぶ部分で差が出ているということです。

基本的に「何か良い商品を作って、地域やお客様に喜んでもらいたい」という思いは皆一緒です。せっかくなので、その思いから生まれた・生まれる商品をしっかりと出口で手にとってもらえるものにしたいですよね。

もし身の回りに苦戦している商品があるのであれば、またはこれから何か商品開発を始めようとしているのであれば、出口から逆算した商品開発について考慮してみてはいかがでしょうか。

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