とにかく使いにくい。今の時代のある意味どれでも卒なくこなすコンデジ群と比較すると。
しかしこれに代わるものはない。それだけの魅力をもっているのがSIGMA DP2 Merrillだ。
DP2 Merrillが何者か。語るより見るのが早い。
発売は2012年7月。有効画素数約4,600万画素のFoveonセンサー。画角は35mm換算で45mm相当、開放F値2.8。
スペック的なことはさておいて、「解像番長」なんて呼ばれるDP2 Merrillの力を知るには写真を見るのが一番早い。
冒頭の画像、一部を拡大してみる。
これだけ拡大しても後ろの枝ぶりがわかる。電柱脇の電線に積もる雪も、地面から出ている杭の上に丸く積もる雪もわかる。
もう少しだけ拡大して視点を右にずらしてみよう。
雪肌の質感がわかる。後ろの笹の葉の1枚1枚がわかる。おそらく枝から落ちた雪の塊が積もった雪の表面につけたであろう跡がわかる。
今度は写真中央左側の小高い山のあたり。更に拡大率を上げてみる。
山の上に1本の高い柱なのか木なのかがあることがわかる。その左側手前、木の枝ぶりの1本1本がわかる。雪原で巻き上げられた雪が霞むように木と山の間の空間を舞っていることもわかる。
ここで改めて、冒頭の画像を見てみよう。
さて、もう説明は不要だろう。DP2 Merrillはこんなカメラだ。
手のひらの中判カメラのような。
サイズはコンデジと呼ぶには大きいが、それでも手のひらに乗るくらい。レンズ部分を除けばCONTAX T2と同じくらいだろうか。
このサイズ感で、ここまで写す。空気感まで写す。先程の笹の葉あたりを拡大したのを見ていると、冬独特の冷たいキンとした匂いまで蘇ってくる。
ただ、このカメラはやっぱり使いにくい。
充電はすぐに切れる(幸いRicoh GRと共通の規格なので多めに交換バッテリーを用意して持ち歩くことにしている)。オートフォーカスが絶望的に決まらない。液晶ディスプレイも見にくい。手ぶれ補正なんてついていない上にこの高画素なので気を抜くとすぐにブレる。被写体ブレはもう殆どどうにもならない。
でも構わない。
このサイズで、この空気感を吐き出せる眼を持っているだけで十分なのだ。1枚1枚を作品として撮るには疲れるし、45mmの画角もスナップ的には使いにくいが、そもそもそうバシャバシャと撮るタイプのものでもない。ゆっくり腰を据えて目の前の光景を空気感と一緒に包み込むように収めるリズムがちょうどよい。
写真を見るたびに再発見が止まらない。
ちなみにRAW画像は特殊な形式(X3F)なのでSIGMA PhotoPro(SPP)という専用ソフトで現像する。撮影時にJPGも同時吐き出しできるが、RAWからSPPの初期設定でワンクリックで現像するだけでも仕上がりの解像感は高くなる。
現像してから細部を見るのも本当に楽しい。自分がシャッターをその瞬間に切った所以が、果たして何だったのか。細部まで調べてみることで浮かび上がってくる。人に見せるというよりは、自分で「写真」という行為を楽しむカメラと言ってもいいのかもしれない。少なくとも私にとっては。
深呼吸して、DP2 Merrillを片手に。
昨今の高画質・高感度・高機能のカメラは一昔に比べて選択肢が多くなってきた。iPhoneを始めとするスマートフォンで写真を撮る時代になって、機能的に一定以下のコンデジはその役割を終え、高級・高機能カメラや一眼レフカメラが趣味的なユーザーまでターゲットを拡大しながらしのぎを削っている。特にミラーレスカメラの進化は目覚ましい。
しかしDP2 Merrillやそのシリーズは発売から何年も経っているにもかかわらず、そのサイズ感と画作りは稀有な存在ではないだろうか。中古でも手に入れてみる価値がある。手元に届いたら、取り敢えず部屋の中でも台所でも庭先でも何枚か撮ってPCで現像してみてほしい。いつの間にか夢中になっているはずだ。自分が撮ったものが何だったかを探すことに。